ノートのすみっこ

せつきあの小説置き場

中学生とわたか

初出:2015/02/10

永久14歳×高山15歳
とわたかのはじまり


「せんぱーい、ここ教えてー」
「……何故俺に聞く……」
彼は、教室の入り口でいつも、せんぱーいと自分を呼ぶ。
 学年は違うのに。わざわざ一つ年上のクラスに来て。
 相当な怖いもの知らずだろうと、常々高山は思っていた。

 いつからか話すようになった天羽永久という人物は、高山の一つ下で、とても綺麗な顔をしていて、弟の事が大好きだった。
 そして彼は――
「ねぇ先輩、大川先生の歴史ってプリント丸覚えしとけば点取れる?」
「……うん、かなりの高得点狙えると思うぞ」
「マジで?そんなチョロくていいのか」
「あのな……お前以外の人間は、そう簡単にプリント丸覚えなんてできないからな」
 ――とんでもない天才だった。
 日本語なんて一回読めば九割覚えるだろーと豪語する人だった。
 高山の席の横で床に座り込んで、永久はこちらを見上げてくる。まわりに自分の部活の先輩だっているだろうに、そんなことは全く気にしていないようだ。
「ていうかお前何しに来たんだよ」
「え、理由なきゃダメ?」
「……俺は受験生なんだが?」
「先輩、受験に困るような成績じゃないだろ」
 にやにやと笑いながら永久が言う。高山が半眼で「なんで俺の成績なんか知ってんだ」と問うと、「芦屋先生が教えてくれた」と真顔で答える。
「芦屋先生……って、俺の担任……」
「お手伝いするから先輩が頭いいのか教えてって言ったら教えてくれた。理科クラストップだったんだろ?」
「……教師としていいのかそれは……」
 頬杖をついてぼやく高山など気にせずに、永久は「頭良かったんだねー」と感心したように言う。
「……本っ当に何しに来たんだお前。それ言いに来たのか?」
「うーん……先輩に会いに来た?」
「は?」
「だって先輩友達いなさそうぇっぷ!?」
殴られた頭を押さえる永久に、高山は怒鳴り付ける。
「その友達にお前が来てるからって遠慮されるわ冷やかされるわ散々なんだが!?」
「えっそうだったんだ!?ちょっと仲良くなりたいんだけど先輩の友達どれ?」
「何故仲良くなろうとする!?」
「えーと、外堀を埋めるため?」
「お前の目的がわからない!」
再び頭を抱えた高山の周りで、笑いを堪えていた他の生徒のうちの誰かが吹き出した。それに釣られるように皆が笑い出す。「なんだよ!」と吠えた高山に、友人たちは「だって」とお腹を抱えながら言った。
「お前、後輩に慕われるキャラじゃないじゃん。口悪いし高圧的だし。それなのに外堀埋めるって……くくっ」
「先輩が高圧的なところなんて見たことないっすね~」
「お前は黙ってろクソガキ!」
「痛ぇっ」
頭をぐりぐりと押さえつけられ、悲鳴をあげる永久。それを見てまた笑いが起こる。「仲良いんだな!」という誰かの声に「どこが!?」と高山が問い返すが、周囲に言わせればどこもここも全てである。
「お前、中二の癖に面白いな!高山が必死になるなんて!」
誰かが言った。それに賛同する声と、笑い声が広まる。
「もうすぐ昼休み終わるぜ。また来いよな!」
「は!?ちょ、お前……!」
「言われなくても来る所存です。またね、先輩!」
にこっと綺麗な顔に笑顔が咲いて、彼は手を振って出ていく。「来んなクソガキ!」と叫んだ高山の声は、聞こえていたのか否か。
 これから彼と長い付き合いになるだなんて、この時の高山は一ミリも考えていなかった。


「先輩、ここどうしてIなの?meじゃないの?」
「……だから何故お前はここにいる……」
高山の席の横で、永久は彼を見上げる。プリントを片手に今日の昼休みもやって来た永久は当然のようにそこに居座っていたし、それを高山の周りの席の人も当然のように受け入れていた。
「いーじゃねーか高山。こいつ頭良いし!」
「藤谷が馬鹿なんだろ」
「んだとこのっ――」
「黙れよクラス最低点」
「……」
「次に酷い点を取ったら公表しますよ!」という先生からの鉄槌をもろに受け、先程の英語の授業で全員の前で公表された藤谷は黙る他ない。そのエピソードを他の人から聞いた永久は「大変っすねー」と笑っている。
 永久は高山以外は「先輩」と呼ばない。その代わり、高山だけには敬語を使わない。それは皆気付いていたが、敢えて誰も指摘していない。
「先輩聞いてよ、6時間目小テストだって」
「じゃあ勉強しろよ」
「してるよ、ほら」
彼は高山を見上げながらひらひらとプリントを振る。どうもそのプリントが出題範囲らしい。らしいが、それを覚えようとしている様子はない。
「それ、ちゃんと覚えてるのか?」
「んー、大体家で覚えちゃってるから見直しだけ」
うわ偉い、と誰かが言う。お前やってねぇのかよ中三だろ、と誰かが笑う。
「……じゃあ自分の教室でやれ」
「やってもいいけどさぁ、先輩俺の教室来てくれないじゃん」
「行くわけねぇだろ」
半眼で答えた高山は、「えー?」と抗議する永久を無視して視線を外す。その先でチョコレートを食べていた生徒が、「お、高山お前も食うか?」と一粒渡してきた。
 ありがとう、と返して口の中へ放り込む。校則違反だった気がするが気にしない事にする。その男子生徒は、永久にも「いるかー?」と尋ねていた。
「あっいります!食います!」
嬉々として手を上げる永久。
「お前、甘いもの好きなのか?」
チョコレートを受け取った永久に高山が訊くと、彼はそれを口に含みながら「うん」と答えた。
「弟が無類の甘いもん好きでさ、一緒に色々食べてたら目覚めちゃって」
「へぇ……あのお前が大好きな弟か」
「そうそう。めちゃくちゃ可愛いんだから!」
永久は幸せそうだ。弟の事を話すときはいつもこの顔をしているから、本当に好きなんだろうと高山は思っている。ただ、高山が見ている永久は全くもって弟の存在を感じさせない行動をしているので、どんな「兄としての顔」を持っているのか常々気になっているのだが。
「あ、写真あるよ。見る?」
「おう、見る見る」
永久が携帯を取り出す。「へぇ、お前の弟?」「俺も見たい」と周辺の人が集まってきた。誰一人携帯の持ち込みが校則違反であることは口にしない。暗黙の了解だ。
 ほら、と彼が見せてきた写真には、肩までの髪を揺らして笑う、〈少女〉が写っていた。
「……え?」
異口同音だったその感動詞に込められた意味は、主に二つあった。一つは、「弟」という呼称への疑念。もう一つは、その「色」についての疑問。
「かわいいっしょ?」
「……弟、なんだよな?」
「弟だよ。女子みたいだろ」
弟、という確定情報が伝わった皆は、それぞれに「へぇー」とか「やべぇ」とか「めっちゃ可愛いじゃん」とか感想を述べる。
「……で、この髪の色は?染めてるのか?」
高山の疑問に、永久は待ってましたとばかりに笑って答える。
アルビノ!」
「は?ある……?」
アルビノだよ。生まれつき色が抜け落ちてるんだ。綺麗だろ?」
ほら、と彼は次の写真を見せる。その中で彼の弟は、ぱっちりとした紅い目をこちらに向けていた。
「目、紅いだろ。血の色なんだ」
「血の色……」
誰かが呟いた。それに反応した永久が、わざとらしく悲しげな顔をする。
「でもさ、こういう変わった見た目してるから、よく虐められたりするんだよね。――まぁ、皆さん中学生ですし、そんな馬鹿げた差別しないでしょうけど?」
一転してにこっと笑った永久。中三の男子たちは「お、おう、当たり前だ」と笑って見せるが、恐らく見栄である。
 上手いな、と高山が内心呟いた頃、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。
「あ、鳴っちゃった。じゃー先輩、またね」
「おう、もう来るなよ」
出ていった永久を視線で見送る。同じく見送った前の席の藤谷が、「おっそろしーなあいつ……」と呟いた。
「ん?何が」
「普通だったらああいう特殊な見た目のやつって虐められるじゃん」
「ああ……弟のことか?」
「ああそうそう。俺は気にしないけどよ、そういうのやる奴まだいっぱいいるじゃん。そこを……きっちり釘刺していった」
感心したように彼は言う。そうだな、と高山はそれに同調した。
「ところでさ」
「あ?」
「そのプリント」
藤谷が指差すのは、高山の机の上に置かれた英語のプリント。
「あいつのじゃね?」
「……」
「次の休み時間に届けに行ってやれよ、〈先輩〉」
にかっと笑って藤谷は前を向いた。


「天羽!」
 中学2年の教室を覗き込んだ高山に、大多数の視線が集まる。
「あ、先輩」
その中でぱっと顔が華やいだのが、永久だ。
 駆け寄ってくる永久に、高山はプリントを差し出す。
「置いていっただろ」
「あ、やっぱ届けてくれたんだ。ありがと、先輩」
やっぱ、という言葉に疑念を抱いたが、とりあえず感謝の言葉に「おう」と返す。
 永久はそれを見ながら、ふふっと笑った。
「……なんだよ」
「先輩、俺の教室来てくれたなーって」
「……」
やられた。
 永久が天才なのは高山も知っていたが、彼はこういう頭の使い方も相当上手いらしい。さっきの「やっぱ」には、「やっぱり俺が仕向けた通りに」という言葉が省略されているのだろう。
「この、クソガキが……」
苦虫を噛み潰した顔で、高山はそう呟くしかなかった。


 七月の、期末テストが終わった何もない時期に、雨水中では球技大会なるものがある。
 いくつかの種目に別れていて三日間かけてやるが、最後の一日はクラス対抗ドッヂボール大会だ。
 二日目で各種目決勝戦や準決勝に突入し、試合数も減ってきた頃、高山は木の幹にもたれて座り込んでいた。
 先程まで試合で、次もがんばろーなーとチームメイトと別れたところだ。学校の裏庭で一人ぼーっとしている。
 この裏庭というのがなかなかに良い場所で、風通しも日当たりも良い割りに人が来ない。大きな気があるから暑ければ木陰にいればいいし、寒ければひなたにいれば良い。7月の日射しはそこそこ強いので今日の高山は木陰にいるのだ。
 首にかけたタオルで汗を拭った高山は、ふと足音に気付いた。
 草を踏みしめる音。振り返ると、某男子生徒と目が合った。
「……先輩?」
「天羽……?」
整った顔が軽い驚きに染まっている。木に手をついて立つ彼は、見上げる高山に問いかけた。
「何してんの?」
「何……って、別に、休んでるだけだが」
「一人で?」
「……悪いか?」
「別に。絶好のチャンスと思っただけ」
「何のだ」
「えーと……先輩を独り占めできる?」
「だからお前何なんだよ」
よっ、と彼は高山の隣に座る。少し空けた間隔は、恐らくくっつくと暑いから。
 彼は体操服の襟を掴んでパタパタと扇ぎながら、「先輩勝った?」と聞いてくる。「次が決勝」と答えると、「へぇ、すごいじゃん」と返ってきた。
「お前な、中三が勝たなくてどうする」
「いやーだって、俺いま中三下してきたとこだし」
「……まじか」
そう答えてから、高山はある事に気付いた。中三男子は全クラス全競技、一回戦は勝ち上がった筈なのだが――。
「お前、競技何?」
「え?バスケ」
「……まじか」
中三は全クラス全競技、一回戦は勝った――つまり、敗者復活戦には出ていない。ということは、永久が今勝ってきたのはバスケの本戦。この時間にやっているのだから、恐らくそれは準決勝。ということは。
 黙った高山の異変に気付いたらしい永久は、訝しげな顔で「先輩、種目は?」と聞いてくる。恐らく同じ結論にたどり着いたのだろう。
「お前と同じだクソが……」
「あー、じゃあ敵同士じゃん俺ら」
高山はため息をついた。自分は動けない方ではないし、チームメイトも下手ではない。同格の中三を下してきたのだから実力はある。が、永久は恐らく平均以上に運動も出来る。しかもノリの良いチームメイトの事だから、相手が中二と分かれば油断するかもしれない。そうすれば、優勝の座が危うい。
 それよりも、自分が永久に負けたとなると自尊心とかプライドとか存在意義とかそういったものが、危うい。
 そんな事全く気にしなくていい立場の永久は、嬉々とした顔で「そうだ!」と言った。
「先輩、折角だから賭けしようよ」
「は?」
自分には既に色々なものが懸かっているのだが。
「俺が負けたら、先輩にも敬語使ってあげる」
「そんなのどうでも」
「先輩が負けたら、先輩の泣き顔写真」
「はぁ!?」
「泣かなかったらメアド」
「明らかに報酬が釣り合ってねぇ!」
「勝つメリットより負けるデメリットの方が燃えるだろ?」
先輩物欲無さそうだし、と付け加えて、永久は汗を拭う。
「まあまあ、男子決勝戦て大トリだから最後だし、まだまだ時間あるし。そんなに焦んなくていいよ先輩」
「お前何様だよ」
「永久様」
「……」
平然と答えた永久に、高山は閉口する。そのまま裏庭に沈黙が訪れた。
 風が木を揺らす。ざあっと爽やかな音が流れる。真っ白な雲が所々浮かぶ晴れ空で、真夏とまではいかなくても気温が高い今日、ここを通り抜ける風は二人にとって恵みだ。
 ず、と衣擦れの音がして、高山はちらりと視線を向ける。幹に寄りかかった永久がすこしずり落ちた音だった。
 永久の体勢が変わったので、汗が滴り落ちる場所も変わる。地面についた高山の手に落ちた雫は、高山の意識を永久に向けた。
「おい天羽」
「んぁ?」
閉じていた永久の目が薄く開き、茶色い瞳が高山を捉える。
「ちゃんと拭け」
「んぐっ!?」
がしっとタオルで掴まれた頭。風呂上がりの子供のように、わしわしと強引に頭を拭かれる。
「先輩さぁ」
「あ?」
「案外面倒見いいよね」
「……知らね」
永久は大人しく拭かれている。自分でやれ、とは思ったが、永久が言う通り案外面倒見が良い高山は結局顔も吹いてやる。
「天羽」
ん、とタオルを返された永久は、それを受け取りながら「先輩さぁ」とまた言った。
「そろそろ永久って呼んでよ」
「そろそろってなんだよ」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「そういう問題じゃねぇだろ……」
「天羽ってこの町に最低二人はいるんだよ?俺の固有名詞は永久だもん。とーわ」
「んなこと言ったって、俺が知ってる天羽は天羽だけだし。……天羽?」
「……」
突然黙った永久の顔を覗き込む。すると彼は、ふいっと顔を背けた。
「天羽?」
「永久って呼ばなきゃ返事してやんない」
「……ガキかよ」
「先輩、俺の事ガキって呼ぶじゃん。クソガキって」
「……」
舌打ちしたい気分だ。この頭の良さには一生敵わないと高山は思う。
 ふと、高山は思い付いた。彼へのちょっとした対抗策を。
「んじゃあ、お前が勝ったら呼んでやるよ」
永久の視線が高山を捉えた。ぱっと顔が華やいで、それからにやりと笑う。
「いーね、それ」
その時高山は自分が火に油を注いだことに気付いたが、時既に遅し、だった。


 結果。
「っしゃあああ!あっぶねー!」
「高山お前どうした?らしくもなく盛大に喜んでるな」
「今回は喜ばずにはいられない深い理由があってな」
 面子とプライドと自尊心と泣き顔写真と個人情報を死守したからだ。
 得点板には3対2の文字。3セット制だが、どのセットも一点差だった。しかも第2セットは取られていたのだから、3セット目の高山の集中力といったらチームメイトも心配する程だった。
 対する永久は、地面に倒れて屍と化している。こちらもチームメイトが心配する程だ。
 高山が「おい」と声をかけると、彼は微かに身動ぎをする。
「……先輩の泣き顔写真ほしかった……」
「だからお前はなんでそれを狙ってるんだ」
「……せめてメアド欲しかった……」
「男のメアドとか欲しがるもんじゃねぇだろ普通……。おい死んでんな」
「死んでも死にきれないよこんなん……」
はぁ、とため息をつく。いくらこれが決勝戦で最後の試合とは言え明日はまだ競技があるわけで、いつまでも倒れていてはその準備の邪魔になる。
 振り返ると、永久のチームメイトたちが心配そうに、高山のチームメイトたちが明らかに面白がって、コートの外から見ていた。
「……おい」
す、と手を差し伸べる。
「邪魔だ。行くぞ、永久」
永久の瞳がこちらを向く。驚いたように見開かれたそれは、ついと細められた。
「……呼んでくれたね、先輩」
永久の手が、伸ばされた手を掴む。
「仕方なくだ。ったく……」
ぐいっと彼を引き上げて、二人はそれぞれの仲間の元へと歩き出す。
 翌日のドッヂボール大会では、永久が高山を嬉々として集中攻撃していたと言う。


 9月も後半となれば、窓の外は台風を呼ぶ大雨である。
 そして窓の内――学校では、受験という名の季節に突入していた。
 いままでふざけていた中三が、だんだんと勉強し始める季節だ。
 1学期は散々中三の教室に通いつめていた永久だが、今学期は一度も行っていない。それは中三が本格的に受験期だから、というのもあるが、それより高山の方が原因としては大きかった。
 廊下で見かける高山が、覇気がないのである。
 ぼうっとした顔で歩いては、先生に呼び止められ、何か話されて俯いて、またとぼとぼ歩いていく光景を、永久は何度も目撃している。
 1学期の高山とはかけ離れた姿だった。何が原因なのかと藤谷などに聞いてみたが、知らないらしい。
 そんなに弱々しい姿を見せられてはどんなテンションで話しかければ良いのかも分からず、結局話さない日々が半月ほど続いていた。
 そんなある日の放課後だった。永久と高山が、廊下でばったり出くわしたのは。
 永久は職員室に学級日誌を出して帰る途中だった。その廊下に、職員室の奥から出てきた高山が通りかかり、ばちっと目が合ってしまったのである。
「……んだよ、なんで今お前と会うかな……」
「先輩……?なんかあったの?」
永久は頭が良い。だから、謎解きめいたものも分かってしまう。例えば、今、最近の高山の様子と、職員室の奥――そこは生徒面接室である――から出てきたという事実から、何か彼の心に重くのし掛かるような事が起きていると確信したように。
「そ、なんかあったの。だからほっといて」
「ふぅん……」
通りすぎる高山。
 その制服の端を、永久がぐいと掴んだ。
「……んだよ」
嫌そうに高山が振り返る。
「何言われたの」
「別に。志望校変えろって、言われた、だ、け」
高山はなんでもないような表情をしていた。だからきっと、隠したつもりでいるのだろう。語尾にいくにつれて喉が詰まるように掠れた、その声も。
「先輩の志望校どこ?」
「あ?朝凪」
「ふうん、じゃ嘘だね。先輩が朝凪志望して落とせなんて言われる訳ない」
「……何でだよ」
「芦屋先生が受かるって言ってたから」
彼は黙った。俯いて動かない。
「先輩、なんか隠してるだろ、辛いこと」
永久は掴んだ制服をさらにぐいっと引っ張った。生徒面接室前の薄暗い廊下に引き込んで、「うわっ」とバランスを崩してへたりこんだ高山と目線を合わせる。
「ねぇ、先輩?後輩心配させるとか最悪だよ?」
「……っまえが勝手に心配してるだけだろ」
「心配されたくないならこんなっ……」
 がしっと顔を掴む。そして俯いていた顔面を永久の方へ向ける。
「……こんな、泣きそうな顔しないでよ」
彼の視線は俯いたままだが、涙を堪えているように見えたのだ。
 高山は暫く黙っていた。
 それから、薄く笑う。
「お前さぁ、ホント……なんで今来た?」
「え、俺はたまたま」
「なんで話しかけたんだっつってんだよっ」
突然語気が荒くなったかと思うと、永久は胸ぐらを掴まれていた。目の前には憤怒に染まった高山の顔。何が起こったのか理解出来ずに、永久は暫く瞬きをしていた。
 それから段々と現状を理解していく。理解しても表情が変わらなかったのは、理解して抱いた感情も「驚き」だったからだ。
 高山が、あの、口は悪くても結構冷静沈着な高山が、本気で怒っている、と。
 そのうち、ゆっくりと高山が崩れて、胸ぐらを掴んでいた手も離れる。
「最っ悪だ……なんで、なんでお前ここにいんだよ……」
「先輩?」
「お前のこと殺してやるって、せめて殴り飛ばしてやるって思ってんのに……全然手が動かない」
は?ともう一度永久は瞬きした。なんで自分が殺される事になったのだろうか。
「せめて俺の前に現れなけりゃ、自分でどうにかしたのに」
「ちょ、先輩?できれば順を追って俺の死因を説明してくれません?なんで先輩の志望校と俺が繋がった訳?」
高山はまた黙る。
 彼は一度深呼吸して、「お前さ」と顔を上げた。
「夢破れるってどんな気持ちか、わかるか?」
「いや……夢破れたことないんで」
「だよな、じゃわかんねぇよ」
あっちいけ、と払おうとする高山の手を掴んで「でもさ」といい募る。
「俺共感は出来ないかもしんないけど、愚痴聞くことはできるよ。先輩なんか辛いんだろ?吐き出してみてよ、ちょっとは楽になるから」
「あーそうだな、それだったら絶対お前以外の奴が良い」
「なんで!?」
「今お前の顔も見たくねぇんだよ」
「だからその理由を」
いらっ、としたのが分かった。空気で伝わってきた。次の瞬間、高山がプチンと何か切れたように、「あーわかったよ!言えば良いんだろ!」と叫ぶ。
「お前天才じゃん、俺にないもの全部、なんでもかんでも持っててさ!俺が今欲しいもの全部持ってて、そんな奴が目の前にいたらウザいだろ!分かってんだよこんなの理不尽だってことも、ガキくさいってことも!だけどっ、せめてお前が俺の前にいなけりゃ簡単に諦められたのに、お前がいるから!お前が出来るなら俺もちょっとくらい出来んじゃないかって思い上がるだろ!あーくそっ……」
肩で息をした高山は、はぁと息を吐き出して、声のトーンを落とした。
「……笑うなよ」
「笑わないけど……」
「俺さ、父親みたいになりたかったんだ……それがちっちゃい頃から夢だったんだ」
高山の父親がどんな人で何をしているのかは永久は知らなかったが、うん、と相槌を打つ。
「その為には、国家試験とか受けなきゃいけなくて、勿論大学とかいかなきゃいけないんだけど……っ」
そこで彼は言葉を詰まらす。ぱた、と廊下に落ちたと思ったものは涙で、えっ?と永久は高山を見直した。
「だけど、夏に父さん事故に遭って、仕事できなくなって……家計やばくて、補助金とか保険じゃ全然、妹の分まで足りなくて」
妹いたんだ、とか事故とか聞いてない、とか初めて聞いた事実に驚くが、それは取り合えず置いておく。
「俺が、奨学金とらなきゃ、とてもじゃないけど高校なんていけなくて……だけど、俺の成績じゃ、いいとこの奨学金枠なんて絶対……無理、でっ……」
あ、と永久はやっと話が見えた。つまり高山は、夢の為にいい大学、いい高校に行きたいけど、不慮の事故で奨学金なしでは進学できなくなってしまい、でも自分の成績では奨学金は取れず、自分の身近にいる確実に奨学金取れる頭を持った幸せな家庭の永久が恨めしかったという訳だ。
「わかってんだよ、お前恨んだってどうにもならないし、ただはた迷惑なだけだってこともさ、だからお前に会わなきゃこんな気持ち感じなくて良かったのに、なんで、なんでお前ここにいんだよ、くそがっ」
どうすれば良いのか分からない永久は、前から抱き締めるように彼の背中をさすっていた。その永久の制服のシャツを、俯いたままの高山が力なく掴む。
「俺は……頑張ったのにっ……」
ぐっと手に力がこもった。「うん、先輩は頑張ってたよ」と背中を撫でながら言う。その言葉が彼のはりつめていた糸をまた一つ切ったのか、高山はそのまま喋らなくなった。
 夢破れるってどんな気持ちかわかるか、という高山のさっきの言葉を思い出す。それはきっとこんな気持ちなのだろう。絶望にも似た、涙が止まらなくなるような。
 中一で初めて出会った高山は、永久から見て本当に大きく感じた。今でも高山は、たった一年しか変わらないのにどこか追い付けない雰囲気を醸し出す「先輩」というカテゴリーにいた。それが今日は、とんでもなく小さく、とんでもなく弱々しく、むしろ守ってあげたい可愛い生き物に見える。
「先輩……」
 呟いた永久の言葉に反応して、涙を拭った高山が顔を上げる。その目は赤く、少し腫れていて、まだ涙が溜まっていて。
 その時、永久の中で、得体の知れない何かがざわめいた。
 その感覚を表す言葉を永久はまだ知らない。その言葉がその感覚を表すのだということをまだ知らない。けれどその感覚は、無茶苦茶なことだって可能にして見せる原動力を秘めていた。
「先輩、あのね、一週間待って。そしたら俺、中三の教科書全部覚えてくる。先輩に全部教えられるくらいに。そんで奨学金枠取ってやろう」
「は……?そんな、無茶苦茶」
「出来るもん。先輩言ったじゃん。俺は――」
驚きと、疑念と、希望と喜びが入り雑じった様な顔で見つめてくる高山に、にこっと永久は笑った。
「――俺は、天才だもん」


 図書館の隅っこが、二人が放課後に過ごす場所だった。
 永久は本当に一週間後に笑顔で教室にやって来て、「先輩、どこわかんない!?」と嬉しそうに聞いてきた。呆気に取られた高山が色々と聞いたところ、国語、数学、社会、理科は過去問で9割5分取れるくらいには覚えたという。
「英語俺苦手でさ、日本語じゃないからやっぱ一日じゃ無理だった。もう一週間待って」
「いや……むしろ俺英語は出来るからいいけど……」
あんな事を言った高山だが、まさか天才の本気がここまでのものとは知らなかった。天才とはこういうものだ、とまざまざと見せつけられた気分だ。
 図書館の隅っこで机に向かって、永久は模試の解答用紙を眺めていた。その向かいには不機嫌そうに頬杖をついている高山。
 一つ下の永久に自分の解答と点数を見られるのを高山が我慢しているのは、初日に永久が、その綺麗な顔を真剣の二文字で染めて真っ直ぐに視線を合わせて、「先輩、プライドとか面子とか色々あるだろうけど、今だけは、俺にだけは捨てて」と言ってきたからだ。
「……先輩さぁ」
「……んだよ」
「漢字ミス多すぎ」
「……」
解答用紙を永久から取り返して、もう一度見直す高山。そして不機嫌そうに顔を上げ、「3問じゃん」と呟く。
「駄目だよ漢字ミスなんてやってちゃ!漢字ミスなんてゼロがデフォルト!どうせ周囲が何点取ろうと満点取れば奨学金確定なんだから漢字なんて出来なきゃだめ!どっちにしろ当日緊張して落としたりすんだから!」
「……はい」
「よし」
高山としては永久なんかに説教されるのは不本意なのだが、言っていることが正論なので反抗も出来ない。
「稲荷山古墳の字こないだも間違えてたよね?元寇の寇は間違えて易いの分かってて聞いてきてるんだから引っ掛かっちゃ駄目!あと小村寿太郎陸奥宗光の順番いい加減覚えて!それから工業地域覚えてないだろ先輩。工業地帯は皆絶対覚えてるんだから聞いてくるのは工業地域の方だろ普通!で、残念だけど高校入試にライトニングなんてマイナーな飛行機出ないから!太平洋戦争の飛行機聞かれたらだいたいB29だから!」
「でもこの問題戦闘機って書いてあるだろ!B29は爆撃機だ!」
「そんなのよく知らない奴等が作ってんだから察してやってよ!」
「理不尽だっ……!」
ここが人気の少ない図書館の隅っこでなければ追い出されていたかもしれない大声で、毎回このマシンガン説教が行われている。机に倒れこんだ高山の鞄から、永久は次にこの前返ってきた中間テストを取り出して勝手に開いた。
「せめて一声かけろよ……」
倒れたままの高山が呟く非難は、華麗に無視。全科目の点数を見て、永久はぱっと顔を輝かせた。
「先輩っ、すごいじゃん、逆転ライン越えてる!」
逆転ラインとは、永久が芦屋先生から聞き出した「今から奨学金枠に届く為に内申で必要な点数」のラインだ。高山はぎこちない笑みを浮かべた顔で、「おう」と小さく返事した。
 勝手にテストを見られて後輩に指導されて散々な筈なのに、勉強やテストが辛かったときに背中を押してくれるのは、高山の点数を自分の事のように喜んで笑う永久の笑顔なのだから、皮肉というか、なんとも不思議な話だ。そしてそんな点数を取った時に真っ先に浮かぶのも、「すごいじゃん!」と笑う永久なのだった。
 最初は「なんで来るんだ」と煙たがっていた人が、いつの間にかそこにいるのが当たり前になっている。名前すら知らなかった人が、今誰よりも近くで味方になってくれている。それは不思議で、抵抗があって、ちょっと気恥ずかしくて、自分にはまだ早いような、そんな気もする感情。
「先輩、いけるよ!先輩が合格したら、俺先輩のあと追っかけるから」
「これ以上追っかけてこなくていいぞボケ」
「なんで!?」
「なんでって、俺がお前に追いかけられて嬉しそうな顔したことあったか?」
「……えーっと……」
無い、とは言いたくないらしい永久が必死に記憶をひっくり返して探している。
 この時間が、受験の合間の息抜きで、結構救われてるなんて、絶対言ってやらな――
「あ、今?」
「は?」
「俺に追っかけられて嬉しそうにしてるの」
「……え」
「あ、その反応。そんなつもりじゃなかった?」
「そんなつもりは更々ないな」
「うーん、無意識ってことは相当重しょっ!?」
机の下で脛を蹴る。
「ないっつってんだろ」
半眼な表情の下を、見透かされたか、否か。


 そうだなぁ、と永久は寒空を見上げる。
前九年の役
「1051年」
後三年の役
「1083年」
大阪夏の陣
「1615年」
江戸幕府が滅んだ」
「1867年」
本能寺の変
「1582年」
「完璧じゃん」
「当たり前だろ」
コートのポケットに手を突っ込んだ高山が、白い息と共に言う。
 日も十分に明けやらぬというのに、この道は結構混雑している。人混みの波に乗りながら、二人も歩いていた。
「ていうかお前なんでいるんだ」
「そりゃあ、年の始めに神様に大好きな先輩の合格を祈ろうと……何その目」
「どこまで本気なんだか……」
「えっ疑ってる?俺本気なんだけど。先輩のこと好きだし本気で合格してほしいと思ってるんだけど」
「騙されねぇぞ」
「うーん……オオカミ少年ってこんな気分かな……」
そんな風にくだらない(永久は至って真面目だと言い張る)話をしながら目指すは、少し大きな神社。この地域に住む人はこの神社に来ることが多いだろう、市内ならそこそこ有名な神社だ。
 本日は一月一日。初詣である。
 高山が不機嫌そうな顔をしている原因は勿論隣にいる後輩にあるのだが、この状況を産み出した全ての発端は昨日にある。
 それは、本当にたまたま、本当に偶然だった。
 高山が塾から出てきた所に、ちょうど永久が通りかかったのだ。
「あ、先輩。奇遇だね。いや……運命かな?」
「運命だけはないと信じてるぞ俺は」
もはや挨拶代わりの受け答えをして、永久は「順調?」と聞く。
「さぁ、客観的な評価はわかんねぇな」
「ふうん、そっか……根掘り葉掘り聞きたい所だけど、先輩今日早く寝たいだろうしやめとく」
がっついてこない永久に違和感を覚え、「俺?」と聞き返す。すると永久はにこりと笑って、「明日、初詣行くだろ?」と言った。
「……なんで知ってるんだ?」
「ただの一般論。何時の電車?」
はたして一般論だけで、祈祷して貰うために朝早く隣町の大きめな神社に行く、という所まで推測できるものだろうか。そんな疑問が高山の頭に浮かんだが、「まぁ永久だし」と思い直した事で綺麗さっぱり無くなった。
「朝の……5時20分だったような」
「うわ、早いね。やっぱ早く帰らなきゃだめだよ。もう9時半だもん」
「……そう言うお前はなんでここにいるんだ」
「っとね、昨日まで希愛ちゃ……刹那の友達が泊まりに来てて、刹那はしゃぎすぎて熱だしたから、冷えピタ買いに行ったとこ」
なるほどこの通り沿いに薬局がある。ちゃんと兄貴やってんだなぁと黙って感心した高山に永久はまたにこりと笑いかけて、「先輩家どっち?」と聞いてきた。
「あー、あっち」
「あ、そっか、先輩雪間小学区の人か。じゃあ逆方向だね」
「最寄駅は雨水だから端っこだけどな。お前雨水小か」
「そうそう。じゃ、またね、先輩」
おう、と返し、その日は別れた。
 ―のだが、今朝雨水駅に行ったら「おっはよー先輩!」と笑う永久がいたのだ。
 家族もいたら諦めようと思ったんだけどね、と言いながら、永久はしっかり高山についてきた。勿論抗議したのだが、永久の「一人で初詣とか虚しくない?」という一言で黙らざるを得なくなってしまった。
 参道を歩く永久は同じく白い息を吐きながら、辺りを見回している。
「ねぇ先輩、帰りにちょっと買い物付き合ってよ」
「は?買い物?」
「うん、今お店見つけたからさ……刹那に、お見舞い」
「ああ、熱出してるんだっけ」
そ、と言う永久の笑顔が、少しいつもと違う。どこか頼もしい、兄の顔だ。弟大好きなんだな、と改めて理解して、高山はぽつりと呟いた。
「俺もお土産買ってくかな……」
それに反応した永久が、「そうだよ!」思い出したように言う。
「先輩の妹って何歳?全然知らなかったんだけど!」
「あ?そりゃ言ってないからな。来年中1だ」
「へぇー……刹那の二個上か。あ、そっか、それで先輩大変なんだね?」
「何が?」
「お金。二人分の制服代とかと先輩の受験費とか学費とかで苦しいんだろ?」
本当に頭がよく回る……と呆気に取られる。「その通り」と投げ槍に返すと、永久は楽しそうに「ね、妹なんて名前?」と聞いてきた。
「りお。理に音で理音」
「あ、音と音なんだ。先輩もハカセの博に音だもんね」
「そうだな」
「妹入ってきたら俺が見といてあげるから心配しなくていいよ先輩」
「その方が心配だわクソガキが」
「先輩俺のこと信用して無さすぎると思うんだ。まだ手もつけてないのに」
「待て、お前俺に何をしようとしてるんだ!?」
さっ、と1メートル程距離をとった高山に、薄く笑って「冗談だよ」と言う。ただ冗談だと言う割には信憑性の高い表情をしていて、高山はしばらくそのまま歩いた。
 鳥居をくぐり、石段をのぼる。上りきると本殿前の広場があるのだが、一気に幅が広くなるので人口密度が薄れて、急に風が冷たく感じる。「さっむ」と呟いた永久が、ふと高山を眺めた。
「……んだよ」
「隙ありッ!」
「うっお!?」
ずぼっと高山のポケットに手を突っ込む永久。高山からカイロを奪ってポケットに居座り、「はーこれで問題ない」と幸せそうに言う。
「……じゃねぇよありすぎだよ!」
「えっ何が!?」
「カイロ奪われるし歩きづらいし周りからの視線痛いしなんも良いことねぇよ!」
「あー、気にしなければ無問題ってぇ!?」
バッと永久が手をひっこ抜く。「爪長くない?先輩……」とつねられた箇所を擦る永久に、「長いかもな」としたり顔で高山は返した。
「っていうか、本当なんでお前来たんだ……さっさとご祈祷の手続きするぞ……」
「はぁい」
 本殿へ入った永久はキョロキョロして、「初めて入った」と小声で呟いていた。高山は毎年家族で来ているので慣れているのだが、きっと永久の方がよく見ている。今記憶にある本殿内部の映像は、量より質で永久の方が詳しいのだろう。
 お祓いは順調に進んで、やけに興奮した永久に相槌を打ちながら高山は出てきた。永久は「祝詞ちゃんと聞いたの初めてだー!」と目を輝かせている。
「わかったから、いい加減黙れ。迷惑だ」
「……先輩それさ、周りの人に迷惑、とか言ってよ。俺が迷惑みたいじゃん」
「お前の存在が迷惑なんだろ」
「ひっどいわぁ……」
ぱりぱりと頭を掻く永久は、しょげてはいるようだが反省の色は全く見えない。まぁ俺にどうこう出来る人間じゃねぇか……と思い直した所に、永久が「あっ」と声をあげた。
「今度は何」
「おみくじ!引いていこう」
「ああ、そういや毎年引いてたな」
引っ張って連れて行かれた先で、巫女がにこりと笑う。両側に赤い髪飾りをさげた彼女は、「引いて行かれますか?」話しかけた。
「……え」
「あー、和風美人ってやつか。……永久?」
高山が振り向く。隣で永久が硬直していた。
「……おい、永久?」
「……え?ああ、何?引いてこ、先輩」
「何、じゃねぇよ。お前ああいう子がタイプか」
「ちがっ……くないけど……だって凄い綺麗じゃね!?」
「おう、神前でナンパとはいい度胸だ」
「あっ」
巫女はさも「微笑ましい」と言いたげに笑っている。あーあ、と眺める高山をよそに永久は持ち前のコミュニケーション力で明るく笑い、「ごめんなさい」と人懐っこく言った。
「一人一回ずつ二人、引いていいですか?」
「どうぞ」
まだ「可愛らしい」という顔をしている巫女におみくじの箱を渡されて、永久は意気揚々と振る。
 こいつもこういう顔すんのな、と巫女に見とれていた永久を思いだしながら、永久から次に箱を受け取った。
 ――その、微かに抱いていた復讐心に似たものが、咎められたのか。
「はい、十一番ですね、こちらです」
横で永久が「中吉かぁ……」と呟いている。
 一方高山は。
「……」
「先輩なんだっ……あ」
 永久が覗き込んだその紙には「凶」の文字。
「……凶って初めて見た」
「縁談、相手を注意して見なさい。交際、自分の反省が足りない。事業、苦しいけど世のために頑張りなさい……」
「ほ、ほら、運を温存したと思えば。あっでも、先輩!試験だけは成功するって!」
「……そうだけど、さ……」
 幸先不安すぎるだろ、と高山はため息をついた。


中学3年生が最後に学校に来た日に、やけに真剣な表情で高山の元へやって来た永久は、真っ直ぐに高山の瞳を見て宣言した。
「もう先輩に連絡したりしないから」
球技会で死守しつつも結局永久が高山の家庭教師になったお陰で連絡先を交換してから、頻繁にやり取りをしていることは既に周知の事実だった。だから、瞬きした高山以上に周囲のクラスメートが素っ頓狂な声をあげた。
 立て続けに理由を聞かれた永久は、尚も真剣な顔で「だって受験だし」と答えた。先輩って俺に励まされてやる気になる質でもないし、と言う永久が不機嫌そうだと思ったのは、一人ではない。
 当の本人は、永久に「だから、受験終わるまで連絡しないから」と再度言われて驚いた顔のまま「おう」と答えることしかできなかった。
 そんな事件の日から、数週間が過ぎた。
 学校の体育館にいる高山の回りでは、様々な制服を来た生徒がごった返している。
 涙を流す者、思い出話に花を咲かせる者、笑い会う者、過去を清算する者、再会を誓う者、合格を祝福し合う者。高山も、そのうちの一人だった。
「高山!いたいた」
名前を呼んだ人の方へ顔を向ける。
「藤谷。お前結局N高受かっ……たらしいな、その制服」
「補欠合格頂きましたー!」
いえーい!と藤谷はピースをする。よかったな、と笑うと、藤谷は「そういうお前は?」と問い返してきた。
「その制服……どこのだ?」
「朝霧」
「朝霧ってそんな制服だったのか!あんな頭いいとこ眼中に無かったからなー。そんなネクタイピンついてるのか」
「ああ、これか」
高山がネクタイを持ち上げて見せる。そこに、校章がデザインされた銀色のネクタイピンが輝く。高山は小さく笑って、「これは、まぁ、特別だ」と言った。
「特別?」
「まぁ……なんていうか。首席の証っていうか」
「お前……!?首席だったのかよ!?」
「らしいな。お陰で新入生代表挨拶の原稿考えなきゃいけない」
「すっげーじゃん!」
バシバシ背中を叩かれて「いてぇよ」と反論したとき、「えー、卒業生の皆さんは、再度ご着席ください」と聞きなれた声でアナウンスが流れた。
「この声……永久か?」
「ああ、お前の後輩ちゃんじゃねぇの?そういや連絡来たか?」
「いや……来てない」
結局受験が終わっても、永久との音信は途切れたままだった。合格したということも、感謝の言葉も伝えられていない。勿論こちらから連絡したって良かったのだが、今までずっと永久から先に連絡してきていたので、今更自分から連絡するというのは恥ずかしいというか、いや、それより。
(あいつがぱったり連絡してこなくなるなんて、なんか、怖い……)
どういう心境でいるのか考えると、メールの送信ボタンを押す手が止まってしまうのだ。
 もともとなんで懐かれたのか分からないのだから、離れて行く理由も自分の知らないところにあるに違い無い。メールを見た相手の感想、反応、返信が怖くて、一歩を踏み出せずにいた。
 まぁ行こうぜ、と藤谷に促されて、先ほど座っていたパイプ椅子に戻る。
 アナウンスはなおも続いた。
「えっとー、申し訳ないんですが卒業前にもう一仕事です。在校生と一緒に机と椅子の移動をお願いします」
卒業生に仕事させんのか、と笑いが起こる。アナウンスの声は悪びれた様子もなく「すみませーん」と言った。
 藤谷は手元の椅子をたたみながら、「何するんだろうな、今年は?」と呟く。
「送別会は生徒主催だからな。さっきまでの卒業式とは違って、なにしでかすかさっぱり……よりによってあのクソガキとならば、余計に」
「楽しそうな顔してるぞ、高山」
「は!?楽しい訳あるか!ヒヤヒヤしてんだよ!」
「いやはや、顔は正直ですなぁ~」
「違うっつってんだろ!」
吠えた高山から逃げるように、藤谷が椅子を持って走り出す。高山も椅子を抱えて彼を追いかけた。
 今年度卒業生、242名。
 この学校において、彼らが最後に一堂に会すのは、卒業式ではなく、その後に行われる在校生主催の送別会である。
 歌ったり踊ったり、ビデオレターを流したり一発芸をしたり、定番のものはあるものの毎年内容を変え、教師、在校生、卒業生入り乱れた宴として楽しみにされている。
 そこには当然のように、ジンクスが生まれていた。送別会で先輩に告白すると上手く行くとか、生徒手帳のカバーを貰うと先輩と同じ高校に合格するとか、送別会で貰える花を交換した人とはずっと縁が続くとか、何が由来でどのくらい信憑性があるのか分からないものばかり。ただ大半の生徒たちは本気で、または面白半分に、それを信じている。ほとんどの人が「願掛け」くらいだろうが、それでも女子たちは大いに盛り上がるし、男子も気にしない訳では無かった。
 今年の送別会はリ立食パーティー形式だった。今まてにない豪華さだ。食べ物は個包装のお菓子や、クラッカーに乗った小さなオードブルのようなもの。テーブルによって様々なので、食べ歩きながら交流をする、という生徒が多く出現している。
 高山は隣の藤谷が後輩の女子から話しかけられているのを横目で見ながら、サーモンやトマトが乗った一口サイズのクラッカーを口に運んでいた。
「高山!写真撮って!」
藤谷が嬉しそうに言う。それに舌打ちを返してから、高山は「カメラ寄越せ」と手を出した。女子が少し躊躇った様子でカメラを差し出したのを見て「怖がらせたか?」と内心首を傾げながら、二人の笑顔を写真におさめる。
 ぺこりとお辞儀して去っていった女子を見送り、藤谷は高山に向かって苦笑した。
「未だに怖がられてんのな、お前」
「……まぁ、今の中二までは知ってるからな」
「高山、知ってるか?お前、去年の入学式に一個上の先輩と派手に喧嘩して相手の歯折って流血沙汰になったらしいぞ」
「……俺は、新入生に絡んでた同学年の男子に声をかけてあらぬこと吹き込んでその場を離れされたってだけなんだけどな……」
「噂って怖ぇよな。流血沙汰やったのはその吹き込まれた男子なのに、そっちの喧嘩とお前の英雄伝が混ざっちまってる」
「英雄伝って……俺は質の悪い絡まれ方して喧嘩売られてた生意気な中一に逃げ道を作ってやっただけだろ」
「その生意気な中一にあれだけ懐かれたんだから、相当英雄に見えたんじゃねぇの?」
そうなのか?と体育館の前の方にある舞台へ目を向ける。更に生意気に成長したあのときの中一の姿は、まだ見えない。
 代わりに舞台上では、軽音楽部によるライヴの準備がなされていた。時間的に大トリと言った所だろう。何も起こらずに平穏に終わりを迎えようとする送別会に、高山は8割の安心感と2割の残念さを抱いていた。
 安心感だけでいい筈なんだが……と溜め息をついて、舞台をもう一度見る。ライヴの一曲目がちょうど始まった所だった。
 周りの同級生のように叫んだり跳び跳ねたりできない高山は、「この曲知らねぇなー」と紙コップのコーラを飲んでいる藤谷に話を振る。
「さっきの子、写真撮るだけだったのか?」
「生徒手帳くれって言われたぜ。断ったけど。思い出の品は取っておきたくねぇ?」
確かに、と納得して、高山は記憶をひっくり返す。生徒手帳を貰うのは、確か何かのジンクスだったよな、と。
「なんだっけ、同じ高校に行けるんだっけか?」
「確かそうだ。女子ってああいうの好きだよなぁ。制服の第三ボタンとか、卒業式の日に告白するとか」
「あ、それってその日のいつ告るかでまた違うらしいぞ」
「まじで!?」
「朝だと後引く恋、卒業式後が一番スタンダードで、送別会中が永遠に続く恋、送別会後が前途多難な恋……みたいな。しかも全部、両思いになれるかどうかは保証されてないんだとか」
「……妙にシビアなジンクスだな。じゃあ永遠に続くってのも片想いが永遠かもしれねぇってこったな?」
「らしい。妹が先輩に聞いた話では」
 へぇー、と藤谷は素直に驚いている。そういうことにあまり興味がない高山は、紙コップにジュースを注ぎながら流れる流行りの曲に耳を傾けた。
 そこへ、そういえば、と少し黙っていた藤谷の声が割り込む。
「結局お前どうするんだよ?」
「は?何が?」
「お前の後輩ちゃん」
「……どうとは?」
真顔で問い返した高山を見て、藤谷は「呆れた」といった表情をする。こいつに呆れられる筋合いはないぞ……と眉間にシワを寄せた高山に、藤谷は「このまま終わるのか?」と訊ねた。
「音信不通のまま」
「お前、音信不通って言葉知ってたんだな」
「流石に馬鹿にしすぎじゃねぇか!?」
「冗談真に受けんな」
「おまっ……!どうすんだよ結局!」
いきり立った藤谷をまぁまぁと宥めて、「よくわかんない」という答えを返す。「はぁ?」と自分よりよほどよくわからなそうに問い返した藤谷に視線を向けて、それからふいと逸らした。
「いいんじゃねぇの、これで」
つまらなそうにライヴを見つめる高山の横顔を眺めた藤谷は「はーん?」としたり顔で言う。
「……んだよ」
「お前、ほんとは寂しいんだな?」
「……は?」
「いままでずっと犬みたいに追っかけてきた奴が急にいなくなって、寂しいんだろ」
「は?ちょ、まて、俺そんなこと……!」
そんなことない、と言おうとして声が出なかった。そんなことないだろ?と自分に問いかける度に、もしかしたらそうなんじゃないか?という答えが見つかる。
「意地張るなって。俺たち、小学校から9年間同じクラスだぜ?」
「……嫌な運命だな、全く」
溜め息をついて舞台を見る。ライヴは最後の盛り上がりを見せていた。「あとでキリつけてこいよ」と藤谷が紙コップのコーラを飲み干す。それから寸分遅れて、ライヴも終了を迎えた。
 マイクや楽器をそのまま残して、彼らは舞台袖へ捌けていく。その時、ボーカルだった生徒が「最後は、企画委員長のシメです!」と言い残していった。
 入れ代わりに舞台にやって来たのが、高山の予想通りの生徒。
「えーと皆さん、卒業おめでとうございます!」
「イケメン」の具現化みたいな顔ににっこりと笑顔を乗せて、女子の心を一瞬にして大量に刈り取る大層効率的な天才。
「変わってねぇな……」
「本当だなー」
呟いた高山に、藤谷は楽しそうに返す。
 永久はその達者な口でぺらぺらと淀みなく祝辞を述べた。原稿はあったのだろうか、それともアドリブなのか、そんな疑問を持つような自然な口調だ。
 出会った時から彼は社交的で、理屈も屁理屈もすらすら口から出てきて、高山とは正反対の後輩。何故自分を追いかけるのか、考えても考えても分からない。ならば、離れていく理由や機会が分からないのも、離れていく事そのものも、当たり前の筈だ。今の彼の瞳に高山は、「高山」ではなく「卒業生」として写っているかもしれない。それで当然だ。
 それが証拠に、そう思っても、身体中どこも痛くない。藤谷に冷やかされるような、そんな感情は無い。
 舞台上の永久はまたにこりと笑って、「皆さんの高校でのますますのご活躍をお祈りしております」と締めくくった。
 当然のように誰もが手を構えた。拍手しようとしたのだ。しかしそれを実行に移した者はいなかった。永久の声が制止したのだ。
「――さて、ここからは俺の個人的な話をさせてもらいます。思い出話なんで色々食べながら軽く聞き流してください。あ、興味ある人は集中して聞いて貰って結構ですよ。ぶっちゃけある特定の一人には全力で耳を傾けて欲しい話ですしね」
場内に笑いが起こり、誰だーとざわめいた。高山が顔を上げ、藤谷が横の9年来の友人を見る。
「俺は、今日卒業するとある先輩に、助けられた事があるんです。入学式の日に、一つ上の二人相手に喧嘩買って……あ、その人たちも今日卒業ですね」
あは、と小さく永久は笑う。藤谷の視線の先で、友人は半眼になっていた。
「勝てると思ってたんです、小学校で喧嘩強かったんで。でも、いざやってみたらボロボロで。あとで医者に聞いたら、もう一発殴られてたら肋骨一本ヤってたそうです。お見事でした。その二人もある意味尊敬するんですけど、俺が言いたいのはそっちじゃなくて」
永久の視線が一瞬動いた。藤谷が小さくあっと声をあげる。
「そんな強い二人を、一声で退けた先輩がいるんです。この話、結構有名でしょ?だから、本当はなんて言われたのかは黙っときますけど」
藤谷は改めて隣の友人を見た。むすっとした顔をしている。
「それ見たとき、そんで、そのあと無駄な喧嘩買ってんじゃねえぞって手を差し伸べてくれたとき、『ああ、先輩ってこういうものなんだ』って……実感したっていうか、なんていうか」
永久は、宝物を見るように優しげに視線を下に落とした。会場はざわめいている。何人かの視線が一点に集まっている。
「ところで、送別会で告白するとその恋は続くらしいですね?」
一転、永久はぱっと顔を上げた。一気に飛んだ文脈について行けない人が大量発生する。そんな混乱なんかお構い無しに、永久は言葉を続けた。
「じゃ、ちょっとマイクお借りしますね」
その一言で、彼の思惑を察した者もいるだろう。藤谷だって高山だってその一人だ。開いた口も瞳も閉じられない。
「――先輩。分かってくれた?騙してなんかいないって」
永久の見詰める先が変わる。真っ正面から少し逸れる。
「俺もさ、恥じらいが無い訳じゃないんだけど、このくらいしなきゃ分かってくれないだろ?高山先輩」
藤谷はもう一度隣の友人を見直した。黒髪の間に見える耳が、心配になるくらい赤くなっている。
「俺は、あのときからずっと、本当に本気で――」
「待っ……永久、何言って」
小さなその声が、壇上まで届く筈がない。藤谷は苦笑して、普段クールな友人の観察に徹することにした。
「――本気で、先輩が好きで……憧れだったんだよ。今度朝霧の過去問ちょうだいね!」
「ついてこなくていい……何の罰ゲームだ、この、クソガキが……っ!」
からかいと冷やかしと歓声の中、真っ赤になって崩れ落ちた高山を、藤谷は爆笑して眺めていた。


 「お前は!馬鹿か!」
「そりゃあ、県内トップの高校に首席合格した先輩よりは馬鹿で仕方ないねぇ」
「そうじゃねぇよクソガキ!」
「あっはは、先輩真っ赤」
「ッ……!!」
送別会解散時の混雑に紛れて拉致された高山と拉致した永久は、校庭の隅の桜の木の下にいた。写真を撮ったり抱き合ったりして別れを惜しむ卒業生や在校生達の輪からは外れた場所だ。
 桜の木に寄りかかって座り高山を見上げる永久は、普段通りの笑みを浮かべていた。その前に立って声を荒らげているのが高山だ。
「おかしいだろ、俺男だぞ!?お前いくらでも女子から告白されるだろ!」
「うん。でも、ここまで先輩に構いたくなる理由、探しても探してもこれしか出てこないんだもん」
「……お前はッ……」
高山は額に手を当てて、はぁーと溜め息をついた。天然タラシ、という言葉が頭を過る。
「でもさ、先輩。昔は男色流行ってたらしいじゃん。俺は、200年足らずじゃそういう感情、人間から消えないと思うけどなぁ。ま、これが恋って感情なのか、分かんないんだけどね」
なんだよそれ、と眉間にシワを寄せた高山に、永久は笑いかける。
「いいじゃん、恋なのか、憧れの一種なのか、友情の延長なのか分からないまだ名前の無い感情。恋人なのか、親友の亜種なのか分からない、新しい関係。それじゃ駄目?」
高山は言葉に詰まった。離れていこうが構わないと思ったし、痛みも辛さも感じなかったのに、今与えられた永久に対する地位が、とんでもなく嬉しく感じる。そしてその微妙な距離は、驚くほどすんなりと自分の感情と融合して収まった。
「……友達以上、恋人以下ってとこか」
「お、先輩上手いね。そんな感じ。家族って言うにはまだ遠いなぁ」
「当たり前だ。お前みたいなクソガキと家族でたまるか」
「俺、先輩のそういう口悪いとこも案外好きだよ。そういう趣味はないけど」
 高山はまた黙った。あからさまな好意は相変わらず。ただ変わったのは、これに「嘘つけ」と返して逃げることが出来なくなったこと。本物として受け止めざるを得なくなったこと。
 永久はそんな高山を眺めて、満足そうに微笑んだ。その表情に反撃が出来るようになるのは、当分先のことになりそうだ。
「ねぇ、先輩。俺頑張ったから、ご褒美が欲しいな」
永久が高山を見上げて、にやりとした口許で言う。
「お前が勝手に動いたんだから、そんなものあげる筋ねぇだろ」
「冷たいな。じゃあいいよ、勝手に動いたご褒美は勝手に貰いますよっと」
「何言って――」
桜の幹に寄りかかって座ったままの永久が、高山の制服を掴みぐいと引き寄せる。バランスを崩した高山が、倒れ込んで慌てて幹に手をつく。そんなことお構い無しに永久は引き寄せて、距離が近付いて、顔が近付いて、唇が触れあって――